3600年前の世界最古のチーズが中国のミイラ体から発見される
スイスのチナールという村では赤ちゃんが生まれると、その年に作られたチーズを、その人が年老いて亡くなるまで保管しておいてお葬式の際に皆で食べるという風習があり、チーズの熟成年数は何十年どころか100年に及ぶこともあります。
しかし、それよりも圧倒的に古いチーズが中国のミイラから発見されました。
この最古のチーズは、ドイツのマックス・プランク分子細胞生物学・遺伝学研究所のアンドレイ・シェフチェンコ教授(Andrej Shevchenko)らが、ミイラの首と胸の中から発見しました。
最も古い場合で紀元前1615年ごろに作られ、お供え物として遺体に添えられたと考えられています。
ミイラは西暦1934年にスウェーデンの考古学者によって中国のタクラマカン砂漠で発見されていたもの。当時の人々は親類の遺体を木製の入れ物に入れて外周を牛皮できつく巻き、砂丘に埋葬していました。
タクラマカン砂漠の乾燥に加え、塩分を多く含む土砂は遺体をフリーズドライ状態にして腐敗を防ぎました。
発見されたミイラはフェルト帽子、ウールケープ、レザーブーツの装い。
一緒にお墓に入れられていた植物の種や動物の組織を分析した結果、埋葬は紀元前1450年~1650年頃に行われたと見られています。
ミイラの首や胸から発見された奇妙な塊を分析してみると成分はタンパク質と脂肪でした。アンドレイ・シェフチェンコ教授らはこれをチーズと断定。
レンネットが含まれていない
発見されたチーズにはレンネットの主な活性酵素であるキモシンやラクターゼは含まれておらず、ケフィアの水分を取り除いたケフィアチーズでした。
- チーズ
牛乳などを乳酸菌または酵素で凝固させ、水分(ホエー)を取り除いたもの。
- レンネット
母乳消化のために哺乳動物の胃で作られる酵素の混合物。凝乳酵素とも呼ばれる。主な活性酵素はキモシン(chymosin) 。
- ケフィア
酵母や真正細菌(バクテリア)の結合体「ケフィアグレイン」を使って牛やヤギ・羊の乳を発酵させた乳飲料。
チーズの歴史が変わる可能性
シェフチェンコ教授らは今回、現存する最古のチーズを発見したことになりますが、これまでにデンマークではチーズ作りに使われた可能性のある5000年前の容器が発見され、ポーランドでは7000年以上前のチーズ濾し器の破片が発見されており、更に古いチーズが存在する可能性もあります。
シェフチェンコ教授は、「我々は初期のチーズを発見しただけではなく、古代にチーズがどう作られていたか、という直接的証拠を得た。このチーズの作り方は簡単で安く、多くの人に広まっていたと考えられる。また、この製法では含まれるラクトースが少なく、乳糖不耐性(乳糖不耐症)の多いアジア人に受け入れられたのではないか」と語っています。
しかし、チーズの起源は、「動物の内臓で作られた袋に牛乳を入れていたらレンネットによって偶然チーズに変化した」とする考えが一般的。
もし本当に人々がバクテリアとイースト菌でケフィアと同じようにチーズを作っていたとすると、チーズの歴史は大きく変わります。
ヨーク大学のオリバー・クレイグ教授(Oliver Craig)はケフィアの方が劣化が早く保存食として有用ではないことから、これに否定的な考えを示しています。
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